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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)61号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 そこで本件審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(一) 原告らの四の(一)の主張について

本件特許発明の特許請求の範囲が「管内を密閉槽内と連通させて槽壁に装着した密閉套管を軸として自由に回転することができ、且径方向に磁極をそなえた磁石を内蔵するプーレーを回転させるとき、該磁石の磁力により該プーレーに随伴して回転する永久磁石を前記套管内にそなえ、該永久磁石の回転力を槽内の攪拌翼に伝達するようにしてなることを特徴とする密閉攪拌装置」と記載されていることは、先に判示したとおり、当事者間に争いがない。

原告らは、右特許請求の範囲中の「径方向に磁極をそなえた磁石」なる文言および本件特許発明の明細書の記載によつて、駆動磁石および被駆動磁石が積層されることが本件特許発明の構成要件の一つであると主張する。

しかしながら、本件特許発明の特許公報の記載によると、本件特許発明は、回転するプーレーに内蔵された磁石の磁力によつて密閉套管内の永久磁石を随伴回転させその回転力を攪拌翼に伝達することを意図したものであり、したがつて、原告の指摘する「径方向に磁極をそなえた磁石」とは、叙上の意図を達成するために設けられた、「プーレーおよび密閉套管の回転の軸の方向ではなくて、この軸に対し径の方向に磁極をそなえた磁石」を意味するにすぎないものと認めるのが相当である。もつとも、本件特許発明の明細書添付の図面には、本件特許発明の実施例として、プーレーおよび密閉套管に内蔵される永久磁石がその回転の方向に対し縦長であるものが図示されていることが明らかである。しかし、先に判示した本件特許発明の特許請求の範囲の記載および公報の全記録を総合すると、本件特許発明は必ずしもこのように磁石が縦長であることを要件とするものではないことが認められる。のみならず、本件特許発明の明細書の「発明の詳細なる説明」の項には、「プーレー内蔵の磁石および密閉套管内の磁石の極数および個数は、随伴回転することができる限り任意である」との記載があり、叙上の磁石がいずれも一個であることを排除するものではないことを認めるのに十分である。以上の諸事実を総合して考えると、本件特許発明の出願当時における磁石に関する技術水準について判断するまでもなく、本件特許発明は、プーレーおよび密閉套管内に内蔵される磁石を多数の磁石の積層構成とすることを構成要件の一とするものとは解されず、この認定をくつがえす証拠はない。

したがつて、この点についての原告らの主張は理由がない。

(二) 原告らの四の(二)の主張について

前示本件特許発明の特許請求の範囲によると、本件特許発明は、密閉套管外の磁石が密閉套管を軸として回転するプーレーに内蔵される構成となつていることを構成要件の一とするものであることが明らかである(ただし、叙上本件特許発明の特許請求の範囲ならびに公報の記載、とくにその「発明の詳細なる説明」の項中の「プーレーはベルト掛けによるほかモーター直結とすることも妨げない」との記載および添付の図面を総合審案すると、右にいう「プーレー」とは、モーターからベルトによつて回転運動の伝達を受ける滑車状のものに限定されず、円筒状をなした回転体を意味するものと解するのが相当である。)そして、かかる構成は、叙上のプーレーを回転し、これに内蔵された磁石の磁力密閉套管内の永久磁石を取り付けた攪拌翼の軸をよく回転させるという作用効果をあげるためのものであることを認めることができる。

他方、引用例、とくに添付の第四、五図には、被駆動磁石を収容したハウジングの周囲に、その形態は必ずしも明確ではないが、駆動磁石がそのハウジングを取りかこむように配置され、かつ、この駆動磁石は被駆動磁石の軸心と同一線上にある駆動軸に結合されている構成、および、この構成により、ハウジングの周囲に配置された駆動磁石を駆動軸の回転により回転させると、その磁力によりハウジング内の被駆動磁石が回転し、その中心に結合されている攪拌器の軸または棒を回転させるという作用効果を奏することが開示されていることを認めることができる。しかも、本件特許発明のものが、右攪拌翼の軸(引用例における攪拌器の軸または棒がこれに相当することは自明である。)の回転において、引用例に比し格段に相違する作用効果を奏することを確認すべき資料はない。

以上の認定事実によると、本件特許発明のこの点に関する構成は、その細部において引用例と同一とはいえないとしても、その技術思想を同じくするものと認めるべく、したがつて、引用例から当業者が容易に推考しうるものというのを相当とし、この点に関する本件審決の認定を誤りのある違法なものとすることはできない。

(三) 原告らの四の(三)の主張について

いわゆる攪拌装置として、一方において化学等の実験用攪拌装置もあり、他方に化学工業用の大規模な攪拌装置の存在することは吾人の常識上容易に推測されるところである。また、引用例に攪拌対象物の容器ないしその材質に関し原告ら主張のような記載のあることを認めることができる。

しかしながら、前記本件特許発明の特許請求の範囲および明細書の記載によると、本件特許発明は「化学工業用」の攪拌装置であることを構成要件とするものではないことが明らかである。換言すれば、化学実験用攪拌装置であつても、本件特許発明の構成要件をみたす限り本件特許発明の技術的範囲に包含されるものと解すべきである。

ところで、原告らのこの点に関する主張は、本件特許発明が化学工業用攪拌装置であることを構成要件の一とすることを前提として引用例との相違を云々して審決の認定を攻撃するものと解するほかはないが、本件特許発明が「化学実験用」攪拌装置であることを要件とするものとは認められないことが前記のとおりである以上、原告らのこの点についての主張は多くをいうまでもなく失当であり、本件審決の認定に誤りはない。

三 以上のとおり、本件審決には原告ら主張のような違法があるとはいえないから、本件審決の取消を求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却する。

(服部高顕 石沢健 奈良次郎)

<注>特許庁における手続の経緯

原告両名は昭和三二年一二月三一日出願、昭和三五年一〇月五日登録の特許第二六六、三一九号「密閉攪拌装置」なる特許権の特許権者であるが、被告は、この特許権につき、昭和四一年六月一八日特許無効の審判を請求し、昭和四一年審判第三、九二五号事件として審理された結果、昭和四四年四月一二日「本件特許を無効とする。」との審決があり、(引例、米国特許第二、七二、三〇六号明細書)、その謄本は同年五月二〇日原告両名に送達された。

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